東京都庁の周辺で冬を乗り切るホームレス
東京・新宿駅の西側には、地上243mの東京都本庁舎を筆頭に超高層ビルが立ち並ぶ。その界隈にある新宿中央公園の一角で、野宿生活者の支援組織・新宿連絡会のボランティアたちが毎週日曜日、炊き出しを行っている。
新宿連絡会が活動を開始したのは1994年。代表者の笠井和明氏は、「設立当初と比較して、行政は変わったけれど世間は何も変わってない」と嘆く。
青島都政時代の1996年、新宿西口から都庁方面へと続く地下通路に「動く歩道」を建設するため、ホームレスを強制排除する事件があった。しかし、その後はホームレスに一時的な住居を提供し就労を促進する「自立支援センター」を開設するなど、支援団体や当事者の訴えを少しずつではあるが行政が受け入れつつある。それらの施策を小出しにせず、もっと活発に推し進めていけば、野宿生活者は激減するだろう。
一方、世間の反応はどうかというと、まるで無関心のまま変わらない。新宿の街に路上生活者がいることは当たり前の光景となっているが、通行人は特に気に留めることなく通り過ぎていく。
ホームレスは決して勤労意欲がないわけではない。その多くは、かつて建設現場などで働いてきた肉体労働者だった。飲食関係などサービス業出身者や、事務系の仕事をしていたいわゆるホワイトカラーもいる。彼らは失業したときに頼る人もなく資金が底をついたか、もしくは高齢で雇ってもらえなくなった人たちなのだ。
「この現状は、社会主義なら人権問題にかかわりますが、わが国のような資本主義の論理からしても、おかしな話です。資本主義は労働力を利用して、利益を得るというのが原理原則だけれど、その労働力を再生産せず、ほったらかしにしている。働ける人も野宿していれば、心身の健康を害して働けなくなってしまうわけだから」(前出・笠井和明氏)
1月27日。どんよりとした曇り空で寒い日だったが、炊き出しを開始する午後7時を前にして多くのホームレスが集まってきた。ボランティアたちは手分けして、大きな鍋から白いスチロール製の丼にご飯を盛り付け、それに煮込んだ野菜スープをかけ、漬物を添えていた。約600食の「ぶっかけご飯」がこの日の「ご馳走」である。
ホームレスはボランティアの指示に従って、3列に整列した。中高年の男性ばかりでなく、若者や女性もいる。テーブルには丼の入った盥(たらい)が並べられた。炊き出しが始まると、3人ずつ順番に受け取っていく。この日に集まったホームレスは350人ほど。2食、3食と、おかわりをする人もいた。
炊き出しが終わると、3班に分かれてパトロールが始まった。目的は情報提供と健康状態のチェックだ。
野宿生活になると社会との接点がなくなり情報が途絶えてしまうので、行政が実施している支援の内容などを記したチラシを配布している。この日に配ったチラシには、新宿区の厳冬無料宿泊事業について記載されている。しかし、入所できるのは20人ずつ2週間だけ。根本的な解決にはならないが、それでもずっと野宿生活でいるよりはマシなのだろう。
この時期は、特に健康に気を配らなければならない。寒さが厳しく、路上で亡くなる人もいるのだ。そうならないように、具合を窺って症状に合わせて薬を配り、酷ければ福祉事務所を介しての入院や通院を勧める。時には救急車を呼ぶこともあるという。
リーダーを務める稲葉剛氏ら4人で巡回するパトロールに同行した。新宿中央公園でテントを張って野宿生活をする人に、「連絡会です。体調はどうですか?」と声を掛けながらチラシを配っていく。
寒さの中、風邪を患っている人が多かった。若い頃の重労働が原因で、「寒くなると腰が痛み出す」と湿布薬を求める人もいた。
都庁近くの交差点に出ると、そこには老夫婦の路上生活者がいた。女性ならではの経済感覚なのか、「少しでも節約するよりしょうがないからさ」と夫人が言った。これ以上、節約ができるものかと思うが、なけなしの金をはたいて、ワンカップの日本酒を買ってしまう男性ホームレスのようなことは、間違ってもなさそうだ。
そのそばにいた65歳の男性は、2月18日に東京マラソンが開催されることを危惧していた。東京マラソンは都庁をスタート地点としており、その付近で路上生活をしている人は開催前日には立ち退かなければならないが、行き先に困っているのである。新宿中央公園に移ろうにも、「ホームレスをこれ以上、入れまい」と阻止される。また、東京マラソンが終わって戻ってきても、元の場所に障害物を置かれて封鎖せれるかもしれない。ホームレスと行政がせめぎ合い、管轄の異なる行政同士が押し付け合っているのだ。
その後、甲州街道を巡回して、別の班と新宿駅西口で合流。休憩を挟んで2本の地下通路をパトロールした。
そして、新宿西口地下広場へ。1998年2月7日、50軒近いダンボールハウスを焼き尽くし、4人の死者を出した火災の起こった場所である。間もなく9周忌を迎えるが、誰が彼らの霊を慰めるのだろう。「自分らみんな、好きこのんでホームレスになったわけじゃない」という初老の野宿生活者の言葉が、心の中で響いた。
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